瓦屋根のガイドライン工法とは?|義務化の内容や棟部の納まり、補助金も解説!

瓦屋根のガイドライン工法とは?義務化の内容や棟部の納まりも図を使って詳しく解説

近年の地震や台風に備えて、瓦屋根にも「耐震性」や「耐風性」が求められるようになってきました。

こうした中で、平成13年(2001年)に作られたのが「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」です。

この基準に沿って施工する方法を「ガイドライン工法」と呼び、安心・安全な瓦屋根づくりに欠かせない存在となっています。

今回の記事では、ガイドライン工法の基本から、義務化の内容や棟の納まりを画像付きで紹介。

また、防災瓦や補助金制度についてまで、わかりやすく解説していきます。

ガイドライン工法

ガイドライン工法

※写真は(一財)日本建築防災協会公式サイトから

まず「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」(ガイドライン工法)の目的や背景について説明します。

その上で、具体的な制定や発行、監修の経緯や耐震・耐風性能などのポイントも紹介していきます。

制定

「ガイドライン工法」とは、日本建築防災協会が発行する「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」に基づいた、地震や台風に強い瓦屋根の施工方法です。

業界団体により制定されたものですので強制力はありませんが、瓦屋根に関する技術基準とそれに準拠した設計・施工方法、診断・改修方法等を解説した基本書です。

令和元年房総半島台風での屋根被害調査では、ガイドライン工法で施工された屋根はほとんど被害が無いことが検証されました。

発行

  • 一般社団法人全日本瓦工事業連盟
  • 全国陶器瓦工業組合連合会
  • 全国PCがわら組合連合会
  • 一般財団法人日本建築防災協会

監修

  • 国土交通省 国土技術政策総合研究所
  • 国立研究開発法人 建築研究所

このように、業界団体国の研究機関が連携しながら、仕様基準を策定していることも、信頼性の高さにつながっています。

巨大地震にも耐える耐震性能

巨大地震にも耐える耐震性能

※熊本地震では多くの屋根瓦が落ちた

ガイドライン工法は、震度7クラスの大地震にも耐えられるよう設計された耐震工法です。

地震の揺れで特に影響を受けやすい屋根の頂上部「棟(むね)」など、部分ごとに耐震実験が行われています。

また、実物大の家を揺らす振動実験も行われ、現実に近い状況での検証が重ねられています。

このように、多くの実験や研究を通して効果が確認され、巨大地震にも対応できる工法として確立されています。

台風にも安心の耐風性能

台風にも安心の耐風性能

※台風で屋根瓦がめくれた様子

平成12年に当時の建設省は、全国の自治体ごとに「基準風速」決めました。

この「基準風速」は30m/sから46m/sまであり、地域ごとに異なっています。

この基準風速に基づいて、安全な瓦屋根を作るための標準施工方法が「ガイドライン工法」として示されました。

風が瓦の表面に当たる外圧だけではなく、風が屋根を通り抜ける際に生じる瓦を巻き上げて持ち上げようとする力(内圧)も緻密に計算して施工するものになっています。

そのため、強風が吹いても瓦がズレたり飛んだりせず、台風などの災害にも安心な高い耐風性能を持つ工法となっています。

義務化の内容は?|建築基準法 改正告示

令和4年1月1日から、瓦屋根の施工に関して新たに義務化された仕様があります。

ここでは、その具体的な内容について解説します。

瓦の緊結方法に関する基準の強化

瓦の緊結方法に関する基準の強化

昭和46年に建設省より告示された「建築基準法施行令第三十九条第二項の規定に基づく屋根ふき材等の構造方法」(告示第109号)が、令和2年12月7日に改正されました。

この改正により、瓦の緊結方法に関する基準がより厳しく強化されました。

そのため、令和4年1月1日以降に新築などの工事を行う際には、ガイドライン工法で定められている瓦の緊結方法を必ず守ることが義務化されています。

※国土交通省資料「瓦の緊結方法に関する基準の強化(昭和46年建設省告示第109号)」参照(PDF23ページの詳細版はこちら

対象

ガイドライン工法の対象は新築などで粘土瓦・セメント瓦を使った瓦屋根です。

スレート屋根や金属屋根(金属瓦・金属板など)には適用されません。

「新築等」の詳細

  • 新築対象(改正後の基準を適用)
  • 増築増築部分が対象、既存部分は改正前の基準で可
  • 既存住宅の全面葺き替え:対象外のため、改正前の基準で可

※ただし改正後の基準で葺き替えすることが望ましい

※ただし、増築や葺き替えといったリフォーム工事の場合でも、できる限りガイドライン工法を採用することが望ましいとされています。

義務化対象の屋根

瓦屋根(粘土瓦、セメント瓦)

なお、既存の建築物に直ちに改正後の基準への適合を求められることはありません。(既存不適格建築物)

既存不適格建築物

「既存不適格建築物」とは、すでに建てられた建築物が、その後の法令改正されたことで新しい基準に合わなくなった建物をいいます。

これは違反建築物ではありませんのでご安心ください

しかし、改築や増築などの工事を行う際には、改正後の法令への適合を求められる場合があります。

※緩和措置がある場合もあります。

令和4年1月1日から基準が強化|緊結箇所

これまで規定されていた緊結箇所

令和4年以前の緊結箇所

瓦のこれまでの緊結箇所は写真の赤色部分でした。

  • 軒、けらば端部から2枚分の瓦
  • むね1枚分おきの瓦

義務化された緊結箇所

令和4年1月1日以降の緊結箇所

これに対して令和4年1月1日から緊結箇所は写真の赤色部分、つまり全ての瓦です。

令和4年1月1日から基準が強化|緊結方法

瓦屋根をビスで固定する

緊結箇所に併せて緊結方法の基準も強化されています。

これまで規定されていた緊結方法

銅線、鉄線、くぎ等で緊結

義務化された緊結方法(部位別)

令和4年1月1日からは、瓦の種類、部位、基準風速に応じた詳細な緊結方法が規定されています。

  • 軒、けらば:3本のくぎ等(くぎ又はねじ)で緊結
  • むね:ねじで緊結
  • 平部:くぎ等で緊結

※緊結強度は銅線、鉄線 < 釘 < ネジ

このうち平部の瓦の緊結方法は、瓦の種類と基準風速に応じて以下の表のように緊結方法が規定されています。

瓦の種類 基準風速
30m/s
基準風速
32~36m/s
基準風速
38~46m/s
F形 くぎ等1本で緊結 くぎ等2本で緊結 使用不可
J形、S形 くぎ等1本で緊結 くぎ等1本で緊結 使用不可
防災瓦 くぎ等1本で緊結 くぎ等1本で緊結 くぎ等1本で緊結

※防災瓦にも形状によりF形、J形、S形があります。

※基準風速は地域により異なり、関東地方では、東京都・神奈川県・埼玉県、千葉県の一部は30m/sまたは32~36m/s、千葉県の房総半島ほかの地域では38~46m/sとなっています。

※屋根ふき材・緊結金物にさび止め・防腐措置をすることも規定されています。

ガイドライン工法には図と写真付きで瓦の種類別・屋根の部位別に瓦の緊結方法が詳しく書かれており、分かりやすい内容になっています。

適合確認

今回の改正告示で対象となる工事で工事監理者(元請け業者等)は、瓦工事業者が作成・報告した緊結状況などの品質管理記録を設計図書と照合します。

工事監理報告書を作成、完了(中間)検査の時に建築主事(又は指定確認検査機関)に検査申請書に添付して提出する必要があります。

以下が、品質管理記録の内容です。

  • 緊結状況
  • くぎ、ねじの使用
  • 部位ごとの写真等

※瓦工事業者が作成し工事監理者に報告する

棟部の納まりは?|ガイドライン工法

棟部の納まりは?

棟部は屋根の頂上の部分です。

ガイドライン工法の棟部の納まりについて図とともに解説します。

棟部の納まりのポイント

棟部の納まりのポイントは棟部の瓦を建物の躯体に固定することです。

これまでの棟部の瓦は置いてあるだけで、瓦と瓦同士の緊結はしていても建物の躯体に固定されてはおらず、瓦の重さで風圧や地震に耐えている状態でした。

令和4年1月1日から義務化された緊結方法で棟部は「ねじで緊結」とされました。

ここでは具体的な例として、棟補強金物、芯木、パッキンステンレスネジで固定の例を瓦の種類ごとに図とともにご紹介します。

※ガイドライン工法に掲載のものには棟補強金物と棟補強芯材と緊結線による冠瓦固定の例もあります。

J形瓦の棟部

J形瓦の棟部の納まり

J形の瓦での棟部納まりの一例です。

棟補強金物を躯体に固定し、金物の上部に芯木を固定、これに冠瓦をパッキンステンレスネジで固定しています。

これにより、躯体に冠瓦が固定された形になります。

のし瓦は向かい合うのし瓦同士を銅線で緊結しています。

棟補強金物の取り付けピッチは標準仕様に従って設定します。

棟補強金物への芯木の取り付けはステンレス製のビスまたは釘で規定通り留め付けます。

F形瓦の棟部

F形瓦の棟部の納まり

F形の瓦での棟部納まりの一例です。

葺き土を使用しない例です。

J形の例と同様、棟補強金物を躯体に固定し、金物の上部に芯木を固定、これに棟瓦をパッキンステンレスネジで固定しています。

これにより、躯体に棟瓦が固定された形になります。

棟補強金物の取り付けピッチは標準仕様に従って設定します。

棟補強金物への芯木の取り付けはステンレス製のビスまたは釘で規定通り留め付けます。

S形瓦の棟部

S形瓦の棟部の納まり

S形の瓦での棟部納まりの一例です。

こちらも葺き土を使用しない例です。

J形、F形の例と同様、棟補強金物を躯体に固定し、金物の上部に芯木を固定、これに棟瓦をパッキンステンレスネジで固定しています。

これにより、躯体に棟瓦が固定された形になります。

棟補強金物の取り付けピッチは標準仕様に従って設定します。

棟補強金物への芯木の取り付けはステンレス製のビスまたは釘で規定通り留め付けます。

防災瓦とは?

防災瓦とは

防災瓦とはこれまでの粘土瓦に比べ、防災性能を向上させた瓦です。

防災瓦とは
  • 瓦同士がロックアームや重ね合わせで固定されるようになっており、耐風性能が高い
  • 通常の粘土瓦に比べ重量が軽く、比較的耐震性能が高い

防災瓦は屋根に緊結されるほか、瓦の1枚1枚が互いに固定される仕組みになっており、耐風性能が高いものになっています。

重量は、スレート屋根などのように軽量ではありませんが、通常の瓦に比べて軽いものになっています。

建物が支える屋根が軽いことは耐震性能に貢献します。

防災瓦についてメーカーの公式サイトが分かりやすいですので参考にご覧ください。

補助金制度はあるの?

補助金制度はある?

ガイドライン工法の屋根に葺き替えたいけど、屋根の葺き替えに使える補助金制度はあるの?と疑問を持つかもしれません。

補助金制度はあります。

国の補助金制度と、東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県の市区町村の補助金制度をまとめた記事がありますので参考にご覧ください。

市区町村の補助金制度についてはその市区町村にお住まいの方が対象になっているものがほとんどですので、お住いの市区町村に補助金制度があるかをご確認されるとよいと思います。

まとめ

瓦屋根のガイドライン工法とは、地震や台風などの自然災害に強い、安全性の高い瓦屋根をつくるために定められた施工基準のことです。

2001年に策定されて以降、耐震性・耐風性を向上させる目的で普及しています。

この工法では、以下のような施工が推奨されています

  • すべての瓦や釘をビスで固定する
  • 防水性や耐震性に優れた資材や下地材を使う
  • 屋根の土台となる野地板など、決められた強度やサイズをきちんと守って施工

特に「すべての瓦を釘やビスでしっかりと固定すること」は、地震による瓦のズレや落下を防ぐためにとても重要なポイントです

また、屋根の葺き替えに使える補助金制度も存在します。

国の制度のほか、東京都・神奈川県・埼玉県・千葉県などの市区町村ごとに補助金を設けている場合があります。

※制度の対象は、お住まいの市区町村により異なるため、詳細は自治体の公式情報をご確認ください。

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2023年6月19日住宅知識,屋根