瓦とは|瓦の種類は?メンテナンスの方法は?ガイドライン工法とは?
瓦(かわら)は粘土などを主成分とし、耐久性や防水性などの特徴から主に屋根瓦として多くの地方で伝統的に使用されてきた建築資材です。
雨水や風を効果的に遮るよう瓦同士を重ね合わせて配置して屋根を覆い、屋根全体を保護します。
今回は「瓦とは」について解説します。
瓦の種類は?メンテナンスの方法は?ガイドライン工法とは?といった疑問も解説しています。
瓦の種類は?|材料・製造方法の違い
材料や製造方法、形状により瓦には多くの種類があります。
まず材料と製造方法の違いでどのような瓦があるかを解説します。
粘土瓦
古くから多くの地方で使われてきた伝統的な瓦が粘土瓦です。
一般的に「瓦」と呼ぶときは粘土瓦をさします。
名前のとおり粘土を主な材料とした瓦で、以下のように作られます。
- 粘土を採掘し練る
- 成型し乾燥させる
- 色を付ける場合、釉薬(ゆうやく)を付ける
- 高温の窯で加熱(焼成)して完成
※燻瓦はこのあと燻す工程があります。
釉薬を使う瓦の場合、焼成の過程で釉薬が化学反応を起こして色が表現されます。
釉薬を使う瓦は工程が陶器を作る工程と同じなので「陶器瓦」とも呼ばれます。
粘土瓦には主に以下のような種類があります。
- 釉薬瓦(陶器瓦):釉薬で色を付けた瓦
- 燻(いぶし)瓦:燻して表面処理をした瓦
- 無釉薬瓦(素焼き瓦):釉薬を使わない瓦
※燻瓦も釉薬を使わないという意味では無釉薬瓦といえます。
釉薬瓦は一般的な瓦です。
燻瓦は「燻化(くんか)」という燻す工程で窯を密閉させて瓦全体の表面に炭素の膜を作らせる表面処理をします。
これにより濃い灰色のくすんで渋みのある「いぶし銀」の瓦ができあがります。
無釉薬瓦は使用する粘土や焼き方の違いによって色に違いができます。
例えば沖縄の瓦は赤いですが、鉄分を多く含む沖縄の土に酸素を供給して酸化させて焼成することで赤い色の瓦ができあがります。
黒色の泥岩(クチャ)と赤土を混ぜた粘土を使用しています。
なお、その他の粘土瓦としては以下のようなものがあります。
- 練り込み瓦:発色のために粘土に二酸化マンガンや酸化第二鉄などの金属の酸化物を練り込んで焼成した瓦
- 窯変(ようへん)瓦:色のムラをあえて出すために酸素の量を調節し焼成した瓦
セメント瓦
粘土瓦のほかにセメント瓦と呼ばれる瓦があります。
セメント瓦は以下のように作られた瓦です。
- セメントと川砂に水を混ぜてモルタルを作る
- 成型し乾燥させる
- 高温の窯で加熱(焼成)する
- 塗装して完成
「川砂」は川の底や河川敷の砂のことで、海砂が塩分を含み貝殻などの混入があるのに対して、川砂は含んでいません。
セメントやコンクリートに塩分は要注意で劣化の原因となり、セメント瓦は瓦本体に防水性がないため、塗装が必要です。
設置後のメンテナンスとしても塗装の塗りなおしが必要です。
瓦の種類は?|形状
瓦は形状によってJ形、S型、F型の3つに大きく分けられます。
J型
J形は伝統的な瓦の形で、私たちが一般的に「瓦」と言われたときにイメージする形状の瓦と思います。
日本の街並みの景観を形作ってきた伝統の瓦の形です。
上の1枚の黒い瓦のイラストがJ形の瓦です。
S型
S形は西洋の建築とともに移入されたデザインと言われ、「Spanish」(スペインの)の「S」に由来する名称です。
写真のように空洞のある丸みを持っているのが特徴です。
F型
F形はフラットな形状をしており、フラットという意味のFから名づけられています。
平板状のデザインのため、全体としてあっさりすっきりとした屋根のデザインができあがります。
西洋の感覚のモダンなデザインの建物にしたいときに向いているデザインといえます。
瓦の種類は?|日本三大瓦
日本伝統の粘土瓦の中には「日本三大瓦」と呼ばれる瓦があります。
三州瓦と石州瓦と淡路瓦です。
J形、S形、F形すべての形状が生産されています。
三州瓦
日本最高の生産量を誇る瓦です。
三州というのは愛知県の西三河地方で、この地方で生産される瓦を三州瓦と呼びます。
現在の主要な産地は愛知県の高浜市、碧南市、半田市です。
石州瓦
石州瓦は日本第2位の生産量の瓦です。
島根県西部の太田市、江津市、浜田市、益田市で生産されています。
伝統的には赤褐色の瓦ですが、現在は他の色の瓦も生産しています。
淡路瓦
淡路瓦は兵庫県南部の南あわじ市を中心とした地域で生産されています。
美しい銀色のいぶし瓦の生産が主です。
淡路島では瓦モニュメントが多数制作されており、上の写真もそのひとつです。
瓦の種類は?|日本瓦、和瓦、西洋瓦、洋瓦
ここまで解説した瓦の種類分けのほかに、「日本瓦」「和瓦」「西洋瓦」「洋瓦」といった呼びかたで分ける場合があります。
おおよそ以下のような意味です。
- 日本瓦:日本で古くから使用されている粘土瓦で一般的に「瓦」と私たちが呼ぶときは日本瓦を言います。形状はJ形で、「和瓦」も同じ意味です。
- 西洋瓦:西洋由来のものをさします。スペイン由来のスパニッシュ型などが代表的なもので、形状はS型とF型、材料の分類でいうとセメント瓦も粘土瓦もあります。「洋瓦」も同じ意味です。
メンテナンスの方法は?
瓦屋根のメンテナンス方法について解説します。
粘土瓦|点検
粘土瓦は瓦そのものが高い防水性と耐久性を持っています。
瓦そのものより先に、棟瓦(屋根の頂上の瓦)の漆喰(しっくい)や、瓦の下のルーフィングと呼ばれるシートの痛みが出てきます。
ルーフィングは防水のために瓦の下に敷いているものです。
このため粘土瓦の屋根のメンテナンスとしては、漆喰やルーフィングのメンテナンスが必要になる築後10~20年を目処に信用のできる屋根工事業者に依頼して点検してもらうことをおすすめします。
ルーフィングのメンテナンスとしては、屋根の葺き直しでルーフィングの交換を行います。
また、強風や台風のために屋根瓦がずれてしまうことがあります。
強風、台風のあと心配な場合はその都度点検を依頼するといいでしょう。
瓦がずれた場合、ずれた瓦を設置しなおすことになります。
このほか、上の写真のように瓦に苔が付着して外見を損なっているのが気になる場合は、水を勢いよく吹きかける「高圧洗浄」によって除去することもできます。
粘土瓦|葺き直し
屋根の葺き直しとは、屋根の瓦を壊さないようていねいに取り外し、野地板など屋根の構造部分を補修したりルーフィングを交換したりしたあと、取り外した瓦を元に戻す工事です。
屋根材として耐久性があり、再設置もできる粘土瓦だからこそできる工事です。
- 今ある瓦をいったんはずす
- 屋根の下地の補修をする
- 外した瓦を取り付けて完了
瓦そのものに損傷がなく、下地の補修をしたい場合に行なうメンテナンス工事です。
粘土瓦|葺き替え
屋根の葺き替えは、今の屋根材を撤去し新しい屋根材に替える工事です。
瓦屋根だけでできる工事ということはなく、スレート・金属・アスファルトシングルの屋根などにも可能な工事です。
- 今ある屋根材を撤去する
- 屋根の下地の補修をする
- 新しい屋根材を取り付けて完了
今ある屋根の上に新しい屋根を重ねて設置するカバー工事も葺き替えに含んでいう場合も多いです。
ただしカバー工事は、今の屋根が瓦屋根の場合には行えません。
瓦屋根特有の表面の波打つ形状で設置が困難であることと、重量のある瓦屋根にさらに屋根を乗せて重量を加えることになり、建物が重い屋根を支えられなくなる心配があるためです。
瓦屋根での屋根葺き替えは、老朽化し瓦の割れ・ヒビ・欠け・くすみなどが全体的に見られるようになってきたときに判断されるといいと思います。
セメント瓦|点検・塗装
セメント瓦の点検は10年程度を目処に依頼されるといいでしょう。
セメント瓦は粘土瓦と違い瓦そのものに防水性が無いため、10~15年を目処に再塗装が必要となるからです。
メンテナンスとしては塗装です。
葺き替えについては粘土瓦と同様の工事になります。
ガイドライン工法とは?
※写真は(一財)日本建築防災協会公式サイトから
瓦屋根の業界で非常に重要な仕様が書かれているガイドラインが「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」(ガイドライン工法)です。
ガイドライン工法
このガイドラインは平成13年に強風や地震に対する瓦屋根の脆弱性を改善するために制定されたものです。
業界団体によるもので強制力のないガイドラインですが、瓦屋根に関する技術基準とそれに準拠した設計・施工方法、診断・改修方法等を解説した基本書です。
発行は一般社団法人全日本瓦工事業連盟・全国陶器瓦工業組合連合会・全国PCがわら組合連合会・一般財団法人日本建築防災協会となっており業界団体です。
監修として国土交通省国土技術政策総合研究所・国立研究開発法人建築研究所となっており、業界団体と国がすり合わせながら詳細の仕様基準を検討していく形になっています。
令和元年房総半島台風での屋根被害調査では、ガイドライン工法で施工された屋根はほとんど被害が無いことが検証されました。
国土交通省の改正告示で耐震性及び耐風性が確保された緊結法として位置づけられ、令和4年1月1日からは新築等をする際にはこのガイドラインで示されている緊結方法が義務化されています。
建築物の瓦屋根に係る現行の仕様基準(S31年に政令に規定、S46年に告示に移行)を
改正し、業界団体作成の「瓦屋根標準設計・施工ガイドライン」の仕様を義務化する。
※国土交通省資料「瓦の緊結方法に関する基準の強化(昭和46年建設省告示第109号)」参照(PDF23ページの詳細版はこちら)
※昭和46年建設省告示第109号告示とは「建築基準法施行令第三十九条第二項の規定に基づく屋根ふき材等の構造方法」です。
告示基準改正のポイント
上記の改正は、以下がポイントになっています。
対象となる屋根は「瓦屋根」で、「瓦屋根」は粘土瓦とセメント瓦の屋根です。
→ 全ての瓦を緊結
→ ねじ及びくぎで緊結
※緊結強度:銅線・鉄線 < 釘 < ネジ
ガイドライン工法は令和2年に改訂版が発行され、すでにこの改正告示に対応した内容となっており、改正告示の基準を補完する工法や仕様の充実が図られ、告示の解説書としての役割を担ったものとなっています。